Stress
From Eroica With Love



「こんな面白い事に参加しないって手はないだろう?」

 先ほどまで同僚にお愛想を振りまいていた大女が、服にビールが染み付いてアルコールくさいな、と文句を並べながら髪留めを外し、顔を拭った。


 貴様は楽しんでいるかもしれないが、おれにとっては拷問以外の何物でもない。

 一定期間狭い部屋に押し込められ、行動を全て監視される。

 興味深い実験材料。一匹のモルモットだ。

 ―――どこかで誰かに苦情を言われたような気もする科白だが。

「しかし、こんなことがなんの役に立つんだろうね。

ストレスをいかに効率よく与えるかを考える暇があったら、ストレス解消の方法を考えるべきじゃないか?」

 貴様がそんなまともな事を言うとはね。

 わざわざ、人にストレスを与えるため、だけに、イギリスくんだりからいらっしゃった貴様が。

 底意地の悪い奴だ、とつくづく呆れ果てた。

 俺の心臓を昂ぶらせるこのストレスをこいつに十分の一でも負担させてやりたい。

 そう思った時、心の奥底でちょっとした悪戯心が浮かんだ。

「ストレスは悪い面だけでもない」

「え、なんで?」

 楽しそうに結わえた髪の毛を解きながら指に絡ませている。

 一々行動が気に障る。

「確かに過度のストレスは百害あって一理無しだが、貴様のようなタイプには有効な手段ともなりうる」

「何だって?」

「性格の悪さをストレスによって矯正する。つまり、毒を以て毒を制すという事だな」

伯爵の眉が少し歪んで、眉間が縮まる。

「何て言い草だろう。

君、ストレス溜まってるんじゃないか?」

 その通り。何を判りきった事を言うんだ。

 なお腹が立ってきたので、無視して話を続ける事にした。

「簡単な例を挙げれば、悪癖の矯正だ。指しゃぶりをしたり、乳離れが出来ない子供には、その部分にからしを塗るという伝統や習慣がある」

「成る程ね。ストレスを与えられたという記憶が、その後の行動を抑制するという訳だね」

 顔に似合わないまともな事を言いつつ、うんうんと頷いてから、おれの顔を睨んできた。

「―――で、それが何で私に有効なんだって?」

「その歪んだ性癖が矯正出来るさ」

「物言いに気をつけたまえ」

 伯爵が指を突きつけてきた。そのまま目の前で偉そうに指を振る。

「フン」

 その偉そうな態度も今のうちだ。

「これは旧ソ連あたりで使われていた再教育方法なんだがな。情報部員がとっ捕まると、拷問を受けるんだ」

 怪訝な顔をしてこちらを見てきたから顔を背ける。

「民間人には関係のない話だね」

 ぶっきら棒な返事を無視して話を続ける。

「電気椅子に座らされて、言う事を聞かんと股間に電流を流される」

「うわあ…」

顔を押さえて伯爵が悲鳴をあげた。

「死なないのか?」

「死なない程度に」

「うぅ………」

 口を両手で押さえながらうめき声をあげたが、指の間からきゅっと噛んだ唇が見える。

「…それで?」

「…それで、ホモの場合の更正方法だが、まあ同じように股間に電流を流す」

もう聴きたくないとでも言うように顔を押さえてから視線を下腹部に落とす。

「違うのは、男のヌ、………裸の写真を見せてから電流を流す事だ」

 目をしばたいて視線を逸らせ、こちらと目を合わそうとしない。

「次に女の写真を見せる。この時は電流は流さない」

「………」

「それを交互に繰り返すと、どんなホモだって更正可能なわけだ」

「………うぅ」

「お前のような男なんぞ一丁上がりだろうな」

「………」

「試しに―――」

「うわぁ―――――――――っ!!」

飛び上がり、身の毛を逆立てて、絶叫された。

「何て奴だ、このサディスト!!」

 目尻に心なしか涙が見える。

「フン、やましい所のある貴様が悪い」

 堪え切れない笑いを隠すために咥えた煙草が震える。

 ああ胸がすっとした。





 その瞬間、部屋のドアが壊れんばかりに激しく叩かれた。

「大丈夫かエリカちゃん、エーベルバッハ君に襲われてないか!」

「見損なったよクラウス!エリカちゃんに手を出すなんて!」

 すうっと血の気が引いたおれの顔を見つめながら、伯爵は言った。

「少佐、君から貰ったストレスは倍返しでお返しさせて戴くよ」

 心臓の音が16ビートを刻み始めた。







END





いやー、本誌を読んだらあまりに少佐が不憫になったので、伯爵にもストレスを与えてみようSSでした。結果少佐のストレスが増大しました。これぞいつも通りです(笑)
ストレスは作らないのが一番ですけどね………。
 来月号が楽しみです。ケーキが食べたいです。


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