パンツァーマーチ
暗い帯の上をスピードを出して黒いワゴンがすれ違った。ライトが上向きなのか、目に飛び込んできたその眩しさに一瞬目をとじた。
汗ばむ手でハンドルを握りながら腕時計の時間を確かめる。
失踪した、いや殺されたかもしれない情報員の部屋を捜索し、めぼしい資料を漁ってから15分、Zは逃げるように部屋から自分の車に駆け込んだ。
誰も踏み込んだ様子のない整えられた部屋から引き出しと言う引き出しをひっくり返し、莫大な書類の山、FDの束、マイクロフィルムの詰まったケース、黄ばんだ新聞の切抜きのスクラップブック、それらを全部車のトランクに押し込み、大急ぎで上司の待つNATOに引き返した。
同僚は殺されたかもしれない、暗殺者がやって来るかもしれない、その恐怖を思うと背中がぞっとした。
一応、と言って出発する前に手渡された拳銃が、上着の中からずっしりと重みを伝えてくる。その重みのみが、心細いZの頼みの綱だった。
ニュースは、やってないかな?
ハンドル片手に車のステレオをいじくり、チャネルを合わす。雑音がひとしきり続き、いきなりアナウンサーの低い声が鮮明に現れた。
「・・・・・・・・のジュネーブで発見されたガンドルフさんは、火傷を負いましたが、軽症で、命に別状は無いとの事です・・・・・・・・」
先輩・・・。
ほっと胸を撫で下ろしたZは、車に積んで合ったカセットケースの中から、無造作にむき出しになっていたカセットを押し込んだ。ラジオのニュースが切り替わり、明るく、スネアドラムが叩き出す軽快な音楽に変わった。
Zはあまり、いや、普通の青年程度に、クラシックには興味がない。任務で張り込みをした時も、ガールフレンドにせがまれてコンサートに行った時も、2楽章の途中で眠ってしまい、隣の中年とガールフレンドの顰蹙を買ったぐらいだ。
カセットにタイトルは書かれていないが、Zは知っている。この曲が何の曲だか。
モーツァルトの、戦車行進曲。
少佐からZに手渡された曲だ。
そういえば、お昼のニュースの間で、キャスターがモーツァルトはヒーリング効果があるって言ってたな。癒しって、要は眠くなるのかな。
聞いてみる前はそんな事を考えたりもしたが、カセットテープから流れる豪快なトロンボーンやティンパニーの轟音は決して眠気を誘うものではなかった。
「SONYが気にくわん」と言ってカセットをくれた時に、少佐は「俺の好きな曲だ、元気が出るぞ」と付け足した。
確かにこの曲を聴くと元気が出るのはいいが、スピードを出しすぎるのが難だろうか。
テンポは速く軽快で、ドラムが一定のテンポを刻む、だが心地よくメロディがスイングし、時にほの暗い場面が現れる。運動会でワンパターンの入場行進曲というより、まるでワルツでも踊っているようだ。
ついついアクセルを踏み過ぎてしまい、予定よりも早くNATOに着きそうだった。
カセットはまだ15分程山場を残している。
最後のトランペットのソロの旋律が聞きたかったので、少し遠回りになるが、街道を通る事にした。
川沿いの道を外れて10分ほどしてから、駐車場に車を留めたZは元来た道に光の帯が出来ている事に気付いた。
その先で、紅い光が揺れている。
検問だ。
あのまま公道を通っていたら、間違いなく警察に止められていた。
ふー、っと長い息をついて、Zは体をゆっくりとシートに沈めた。
弦の激しく上下する刻みと共にトロンボーンの低音がスピーカーをびりびりと鳴らした。
頭を背もたれにもたれて、いつの間にかZはメロディをトランペットに続けてハミングしていた。
演奏が終わるまで車を降りる気になれなかった。
書いておいて言うのも何ですが、僕はモーツァルトの戦車行進曲を聞いた事がありません。
クラオタ(注:クラシックオタク)として、エロイキアンとして一度は聞かねばならないんでしょうが、CDを探せど見つからず。
どんな曲なんだろう・・・どなたか詳細を教えて欲しいです。
今回は、CLASSIC MUSIC ARCHIVEShttp://www.classicalarchives.com/index.html から無料会員登録して、モーツァルトの交響曲第40番1楽章、4楽章、をフリーでかけてました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ものっそ眠くなりました。
あかんって、癒し効果出てるって。
結局いつものBGM:チャイコ「ロミオとジュリエット」「吹奏楽マーチ集」
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