旧 題 : 親 之 心 子 知 ラ ズ ト ハ
珍しく本部に戻ってきたセルバンテスは、ここには不釣合いな人影を見つけた。
「サニーちゃん、どうかしたのかね」
少女は声のした方に顔を上げた。
「セルバンテス様、お久しぶりです」
「"様"はいいって」
樊瑞から硬く念をさされているのか、はたまた無意識のうちに自分から出るオーラのようなものを感じ取っているのか。なんとなく距離を置くようなそぶりに思わずセルバンテスは苦笑した。
それはともかくとして。
なぜか、声も表情もどことなく元気が無い。
「どうかしたのかね、悩み事なら相談に乗るけど」
「いいえ、結構です」
身を翻して引き下がろうとするのをドアを押さえて引き止める。
「当てて見せようか、―――アルベルトのことだろう、きっとそうだ」
「・・・・・」
返事が無いのを返事と取って、セルバンテスは莞爾として笑った。
この似ても似つかぬ親子は、セルバンテスに言わせれば全く良く似た親子なのだ。
「図星を指されると黙り込むところもそっくりだねぇ」
心の中でそう思いながら少女の顔を見つめる。
十傑集の娘というだけでも苦労の多いポジションのはずなのに、
自分のことなどそっちのけで。
おじさまおじさまと樊瑞の胃の心配ばかりしている。
まあ、そんなところがセルバンテスの樊瑞敵視の原因の一つであり、―――結果として樊瑞の胃に穴を開ける原因の一翼を担っているのだが。
だがもしそうであれば、こんなところでぼうっとしていないで、樊瑞のために給湯室でおいしいお茶でも入れているだろう。
またはレッドと怒鬼の喧嘩の仲裁を務めているはずだ。
幽鬼とお茶でも飲みながら、取り留めも泣く愚痴をこぼしあって居るかもしれない。
こんな場所に居てぼうっと何かを考え込んでいるのは―――
自分の力ではどうにもならないこと。
つまり、アルベルトのこと―――
「まあ、話してご覧。さっきも言っただろう、悩み事なら相談に乗るって」
そう言ってセルバンテスはいたずらっぽく笑った。
「あいつは自己中心的だからね、自分の趣味を最優先する奴だから」
壁にもたれてサニーの話を聞いていたセルバンテスは言い放った。
「というか、子煩悩なアルベルトというのは想像できないし、家族サービスしてる姿なんてのもぜんぜん考えられないしー・・・」
「それは元より期待してませんが」
「・・・君も実の父親に対して言いたいこと言うね」
まだ未開花なものの、サニーの能力は父親のアルベルト、今は亡き母親の一丈青扈三娘から受け継いだ純血種的なものであり、いずれは十傑集のポストを占めるだろうと予想されている。
その中にテレパシー能力というものがある。
セルバンテスはアルベルトと組んで殆どの作戦を進める為、実際にその能力を見たことは無い。だが、かなり強力なものであることぐらいは承知している。
もし父親の身に何かあれば、何らかの反応があり、たちどころに分かる、 ―――筈である。
というのも、サニーの能力自体が未発達であり、自分自身の意思で制御することが出来ないからだ。
だからその能力の全貌を知っているのはアルベルト一人であり、
それを自由自在に使いこなせるのもアルベルト一人である。
サニーにしてみれば、はた迷惑な能力だろう。
「だから私には父の声なんて聴こえないんです」
「・・・・・」
「父が何を考えてるかなんて分からない」
何も聴こえないし、
何も分からない。
父が私のことをどう思っているのか、なんて。
ちょっと悪戯っぽく微笑むとセルバンテスは言った。
「分かった、協力しよう」
「え!?」
「できるだけアルベルトに聴こえるよう、大声で叫べ。いいね」
「え?父は今出張中・・・」
一瞬白いクフィヤーに視界を遮られたかと思うと、思いっきり体を壁に押し付けられた。
「痛っ、なにす・・・」
そこから先は言葉にすらならなかった。
稀奢な体の上にセルバンテスの体が覆いかぶさって、
唇を塞いだ。
逃れようにも、相手は十傑集、力で敵う筈も無い。
「やだっ、やめて下さいっ、やっ―――、」
抵抗というにはあまりに無力な抵抗。
もう涙目になっているのを知ってか知らずか、手を休めさえしない。
「やだっ、やめてっ、ふぇっ―――、」
うわああんと泣き出しかけた瞬間、ドアが勢いよくバンと開いて、
「セルバンデス・・・貴様という奴は〜・・・っ!!」
ぜいぜいと息を切らしたアルベルトが立っていた。
「お父様・・・今日は出張中だったはずでは・・・」
「会議が早く終わったんだ!」
つかつかと歩み寄って、一気に両手を高く挙げ、振り下ろす。
たちまち本気の衝撃波の直撃を受け、セルバンテスは吹っ飛んで瓦礫の山に突っ込んだ。
「帰るぞ」
「は、はい」
背を向けたアルベルトの後を追いかけてドアの前まで来た時、サニーはくるりと振り向いて、セルバンテスのほうを振り返った。
「あの、―――ありがとうごさいます」
「いや、礼なんかいいよ、役得だったから」
怪訝な顔をしたアルベルトを見ながら、体に付いた塵を払いのけ、セルバンテスは笑い返した。
「あいつはショタコンでロリコンだから近づくなって樊瑞から聞いてないのか!?」
「・・・・・」
「大体、なんとなく変な奴だから近づくなって樊瑞から聞いてないのか!?」
「・・・・・」
アルベルトが振り返ると、そこにはサニーの笑顔があった。
「―――何がおかしい」
「ううん」
そう言ってアルベルトに飛びついた。
「なんでもなーい、ふふふ」
暫く黙っていた後、アルベルトは口を開いた。
「―――第一条件はわしより強い奴なのを忘れるなよ」
初出は C'est si bonism 様のサイトに1月早々に載せて頂きました。
随分昔の事にも思えます。
アップするにあたって改定しようと考えていたのですが、最後の一文を読んで気が変わりました。
この当時は文章とかマナーとか考えず、ただGRへの愛だけで書けたんだなぁ。
今の私にはこれ以上面白いシメは思いつきそうにありません(笑)
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