Slash,slash,slash―――巴里千佳



「ほら、もっと深く息を吸って、吐いて。」

 荒い息が喉を通るたびに滑らかな肩が上下し、外見はそう痩せてもいない筈なのに背骨がくっきりと浮き出た白い背中が震える。その背骨にヒースは自分の指を押し当て、なぞる様に焦らすように手を這わせた。腰まで手が届く頃にはバージルの口から、押し殺しきれなかった息が漏れる。

「ふぅっ………あっ」

詩人が苦悩する声、それは二時間程前、天井まで積み上がった本棚に囲まれた木製の机に向かい、床の紙屑を増やしつつ、なかなか紙の上を走らないペンごと指をインク壷に突っ込んで汚したりしながら呻いていた時とは違い、ベットの上に転がされ、シーツでぐぐもって不明瞭だとはいえ、明らかに快感が入り混じっている。

「息を詰めんなって言ってるだろ。気分転換させてやろうと思ってやってんだから、こんな時ぐらい文芸誌とやらの締切を忘れろよ」

「悪かったね。その好意は有難いんだが………ただあんまり、あ」

 何か言おうとして、バージルは口を閉じた。

 舌を噛みそうになったのもある。

 だがそれより、その先を口にする事は、陳腐すぎて『詩人の魂』とやらが許さなかった。

「あんまり、―――何だ?」

 そう言ってヒースが顔を近付けてきた。長い髪が背中や首筋に当たり、くすぐったくて詩人は笑った。

「あんまり―――上手いものだから、その」

「うん?」

 少し頭を掻いて、ヒースが上半身を起こした。首にかかっていた小さな銀のプレートがふらりと揺れる。その下に着込んでいるアンダーシャツの首元からちらりと柔らかそうな茶褐色の胸毛を覗かせている。自分には真似の出来ない野性味のあるお洒落の仕方だった。

「やっぱり体育会系ってことなんだな、手つきがよっぽど場数を踏んでるんじゃないか」

「そりゃぁ、勝負の前ってのは特に念入りにやるもんだ。それと―――」

 そう言って、ヒースはバージルの背に跨り、腰を掴んだ。

「その言い方じゃお前、おれがピアニストだって忘れてただろ」

 そう言ってそのまま腰に置いた指に力を込める。

「ひあっ、んん!」

 ヒースの指が動く度、自分の口から疑うような掠れた声が発される。普段よりも声の調子が高い分、まるで鍵盤を流れるように叩くか、ピアノ線を弾くような声の印象を受けた。

 そんなバージルの様子を楽しんでいるのか、からかう様にヒースの指が体をなぞる。

「いいのか、バージル・ワードとあろう者がそんな格好で」

「・・・何が、言いたい・・・」

「今日はジャスティンの仕事明けだったぜ」

 その一言でバージルの頬が、羞恥心でさっと紅に染まった。

「お前のこんな格好見たら、何て言うだろうなぁ・・・」

「酷な事を言う、ヒース・イアソンはそんな男だったか?」

「ジャスティンも目が覚めるかもしれんぞ」

 そう言ったヒースの口元に笑みが浮かぶのに、バージルは困惑した。

「二人まとめてやってしまう気なのか?」

「そんなことしちゃ、ジャスティンがへそ曲げちまう。一人ずつ、念入りにな………」

 ヒースが手を止め、嫌がってバージルが首を振ろうとした瞬間、ヒースの手が脇腹から腹筋まで撫でるように動いた。

「何だ、続けて欲しいのか?早くして欲しいって?」

「そんなつもりは………」

「あるのか?ないのか?」

「ねえヒース!早く・し・て・よ・・!!」

 そう言って無遠慮にドアを開けたジャスティンは、いきなりバージルに枕を投げつけた。

「次、ヒースにマッサージしてもらうのは、ぼくなんだからね!!」

 ひとっ飛びにベッドの上に飛び乗ると、ジャスティンは更に高い声で吠えた。

「肩こりぎっくり腰なんてかっこ悪い!だからバーさんなんて言われるんだよ!」

「あのね、ジャスティン。君はどうなの」

「ぼく?ここまで歩いてきてくたくたなんだよ!」



END




はい、久々の企画物でした。エイプリルフール記念。
(バレンタインもホワイトデーも書くつもりはあったのですがすっぽかしました)
シチュエーションはまあよくある事として、問題は「誰」で書くかでした。
『やおいでギャグ』といったら、この路線の第一作となったイブしかないかと、誰にも求められていないにも拘らず………でも楽しかった〜〜〜!!
あ、個人的な発見を一つ。「Plus Ultra」のイブのカラーページ、ジャスティンを手で隠して遊んでみるとヒースとバージルが俄かにいかがわしげでいい感じです(笑)


 
 




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