パ ン ド ラ の 箱
“全ての贈り物”は箱に託される。
箱を開けると漆黒の煙と共に全ての不幸が四方に飛び散り、蔓延する。
疫病、戦争、貧困、憎悪、嫉妬、飢餓、好色、残虐。
気付いた時にはもう遅い。
人間達は混乱に陥り、不幸に苛まれる。
その不幸の種をものにしようと、俺とあんたで命を死に晒してまで全力でぶつかり合っていたとは。
あんたはギリシャの歴史の下に俺を埋めようとし、
俺はボスポラス海峡沖で波を滑り行くソ連漁船に狙いを定め、
お互い手加減しなかった。
お互い死んだと思ったろう?
だが何の奇縁か、俺はこうして生きていて、あんたが勲章を受けるのを見つめている。封筒には何の小細工もされてなく、ただ一言を写真の裏に
「わが好敵手エーベルバッハ少佐の第一線への復帰を心より祈る―――モスクワ発『仔熊のミーシャ』」
自分を殺そうとした相手に言う台詞じゃないぜ。
デキた人間と言うべきか、自惚れていると言ってやるべきか?
それとも、自分の方が数段勝っているとでも誇示したいのか?
それとも………心より!その一言さえ無ければ!!
どちらにせよ、やはり運命の方が数段上手の皮肉家だ。
半年後にブラックボックスの封印が解かれれば、国は破壊される。積み上げてきた全てが失われる。
不満の捌け口として、半年前の功労者の名前が挙がるのは目にみえている。
任務と使命を互いの命より優先し、場合によれば自分の命さえ辞さない男は、比類なき完璧なチェスの駒だ。
あんたが死ねば、さぞかし旨い酒が飲めると思ってた。だが今は違う。
死んだ者は還らない。
だがそれは………、下衆の後知恵だ。
後悔をしたところで時遅く。白っぽい波飛沫が天高く上がり、幾度と聞き慣れた爆発音が轟いた瞬間、微動だにせず海を見つめていた。それが、俺なりの死者への手向けだった。
俺は………薄情者か?心の中で自問自答する余裕などなかった。いつもの任務遂行の爽快さも味わえなかった。
あるのは絶望だけ。
かけてIBMの技師から封印の内容を伝えられた時、絶望は追い打ちをかけられた。
情けなくて涙も出やせん。
俺の負傷は無意味か?
あんたの死は無駄か?
既に無くしたと思ったものに、希望は持つな。持ったが最後、傷つくのは自分自身。
優秀なエージェントほど早死にし、美人が薄命なのは世の常。嫌な事は早く忘れてしまえばいい。
頭の隅に過去をおいやることで生き延びてきた筈だったのに。
そして、泣いた。
だから、笑った。
ずっと張り詰めていた琴線が一遍に断ち切られてしまったようだった。
あの野郎、生きていやがって。
ご丁寧に敵の身体の心配までしてくれやがって。
終わった任務のつまらん冗談に付き合う気はないが、あんたの皮肉は腹にこたえた。
伯爵の目の前なのにも構わず、本当に久方ぶりに笑った。笑いが止まらなかった。
そう、涙が出るほどに。
今なら間に合うか?
今だけなら言えるか?
いや、言うまい、今は。
例え人に火を与えたとして、神から裏切りの罰を与えられようと。
敵に塩を送ったと、味方から二重スパイの謗りを受けようと。
いつか、何があっても、俺以外の誰にも、あんたを殺させはせん。もう二度とあんな思いはしたくない。
その一言だけは、今は。
懐かしいですね、約一年半ほど前に書いたものです。確かこの頃が露×独熱がピークに達した時でした。昔書いたVer.を読んでくれた人はどの位いるのかなぁ、というよりまだいるのでしょうかねぇ………淋しい。ラスト消してしまいましたが、これ位の方が原作に近くてよいのではないでしょうか。
今読むと、仮タイトルとして「Hope」と書いてありました(………そのまんまだ)
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